【要旨】 全独占的通常実施権者であつてもこれに差止請求権を認めることは困難であるが,損害賠償請求をなし得る。 |
【判示】 差止請求権について判断するに,通常実施権ひいては完全独占的通常実施権の性質は前
記のとおりであるから,無権限の第三者が当該意匠を実施した場合若しくは権利者が実施権者との
契約上の義務に違反して第三者に実施を許諾した場合にも,実施権者の実施それ自体は何ら妨げら
れるものではなく,一方そのように権利者が第三者にも実施許諾をすることは,実施権者に対する
債務不履行とはなるにしても,実施許諾権そのものは権利者に留保されて在り,完全独占的通常実
施権の場合にも右実施許諾権が実施権者に移付されるものではないのであるから,実施権者の有す
る権利が排他性を有するということはできず,また条文の上からも意匠法三七条には差止請求権を
行使できる者として,意匠権者又は専用実施権者についてのみ規定していること(しかも,本件に
おいて原告は専用実施権の登録をなすことにより容易に差止請求権を有することができること)を
考慮すると,通常実施権者である限りは,それが前記完全独占的通常実施権者であつてもこれに
差止請求権を認めることは困難であり,許されないものといわざるをえない。
完全独占的通常実施権においては,権利者は実施権者に対し,実施権者以外の第三者に実施権 を許諾しない義務を負うばかりか,権利者自身も実施しない義務を負つており,その結果実施権者 は権利の実施品の製造販売にかかる市場及び利益を独占できる地位,期待をえているのであり,そ のためにそれに見合う実施料を権利者に支払つているのであるから,無権限の第三者が当該意匠を 実施することは実施権者の右地位を害し,その期待利益を奪うものであり,これによつて損害が生 じた場合には,完全独占的通常実施権者は固有の権利として(債権者代位によらず)直接侵害者に 対して損害賠償請求をなし得るものと解するのが相当である。 |
【解説】 意匠権についての判決であるが,特許権についても同じ判断になるものと考える。 債権としての効果範囲 |