【要旨】 著作権の消滅後は,著作権者の有していた著作物の複製権等が所有権者に復帰するのではなく,著作物は公有(パブリツク・ドメイン)に帰し,何人も,著作者の人格的利益を害しない限り,自由にこれを利用しうる。 |
【判示】 美術の著作物の原作品は,それ自体有体物であるが,同時に無体物である美術の著作物を体現しているものというべきところ,所有権は有体物をその客体とする権利であるから,美術の著作物の原作品に対する所有権は,その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり,無体物である美術の著作物自体を直接排他的に支配する権能ではないと解するのが相当である。 そして,美術の著作物に対する排他的支配権能は,著作物の保護期間内に限り,ひとり著作権者がこれを専有するのである。 そこで,著作物の保護期間内においては,所有権と著作権とは同時的に併存するのであるが,所論のように,保護期間内においては所有権の権能の一部が離脱して著作権の権能と化し,保護期間の満了により著作権が消滅すると同時にその権能が所有権の権能に復帰すると解するがごときは,両権利が前記のように客体を異にすることを理解しないことによるものといわざるをえない。 著作権の消滅後は,所論のように著作権者の有していた著作物の複製権等が所有権者に復帰するのではなく,著作物は公有(パブリツク・ドメイン)に帰し,何人も,著作者の人格的利益を害しない限り,自由にこれを利用しうることになるのである。 したがつて,著作権が消滅しても,そのことにより,所有権が,無体物としての面に対する排他的支配権能までも手中に収め,所有権の一内容として著作権と同様の保護を与えられることになると解することはできないのであつて,著作権の消滅後に第三者が有体物としての美術の著作物の原作品に対する排他的支配権能をおかすことなく原作品の著作物の面を利用したとしても,右行為は,原作品の所有権を侵害するものではないというべきである。 |
【解説】 |